にゃん吉童話『テレビの中』 - にゃん吉一代記
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にゃん吉童話『テレビの中』



テレビの中
                          新美にゃん吉
 こねこの、にゃん吉は、テレビが好きです。
家の人がいなくて、たいくつな時でもテレビがついていれば、
画面の中で、人や、お友だちの動物や、見たことのない物が動いています。
楽しい音楽が聞こえたり、歌を歌う人もいます。
画面の中のものは、大きくなったり小さくなったりします。
お友だちの、こねこが画面の中にいるので、
にゃん吉は、手を伸ばしてみましたが、画面の中に手は届きません。
にゃん吉は、テレビの後ろに行ってみました。
後ろに、お友だちの、こねこがいると思ったからです。
でも、後ろも囲まれてしまっています。
細長いあながあります。
にゃん吉は、目をほそめて中をのぞいてみました。
いっしょうけんめいに、中をのぞくのですが、
中は、とても暗いのです。
「夜になったのかもしれない。」
にゃん吉は、テレビの前に戻ってみました。
テレビの中は明るいままです。
にゃん吉は、ふしぎに思いました。
テレビの中は、せまいはずなのに、
にゃん吉が見たことがない風景も見えます。
ときには、高いところも低いところも見えます。
「ただいま。」
お家の、こどもが帰って来ました。
にゃん吉は、こどもと遊びました。

 夜になりました。
夜は、こども部屋で、こどもと一緒に寝ています。
その夜、にゃん吉は、夜中に目が覚めました。
いつもは、また寝てしまうのですが、
にゃん吉は、テレビが気になりました。
こっそりと、こども部屋をぬけだして、
テレビのある部屋に行きました。
居間は、暗くて、ひっそりとしています。
にゃん吉は、テレビの前に行きました。
テレビの画面も暗く、ひっそりとしています。
テレビの中で、誰かが寝ているかもしれない。
にゃん吉は、耳をすませて、画面をじっと見ました。
でも、だれの気配もしません。
にゃん吉は、テレビの上に飛び上がりました。
そして、テレビの上の面に耳をつけて気配をうかがいました。

 しばらくすると、にゃん吉は、テレビの中にいました。
お昼に見た風景の中にいます。
かわいい、こねこもいます。
にゃん吉は、こねこに近づいてみました。
でも、にゃん吉が近づくだけ、こねこは離れていきます。
少し歩いていると、また違ったところになりました。
お魚が泳いでいる海の中です。
お魚を、捕まえようとしても、お魚は逃げません。
ゆらゆらと泳いでいるままです。
でも、お魚は捕まえられません。
次は、明るいところに出ました。
人間が、明るい色の衣装を着て、歌を歌っています。
まぶしいので、にゃん吉は、目を閉じました。

「あらあら、にゃん吉。」
人間の、お母さんの声が聞こえました。
「こんな、ところで寝たのね。」
お母さんは、やさしく、にゃん吉をテレビからおろしました。
そして、テレビについている、スイッチをおしました。
すると、テレビの中が白くなり、やがて中が見えました。
にゃん吉は、寝ぼけたままで、テレビを見ています。
それから、お母さんは、丸いチャンネルを回しました。
すると、中の世界が変わります。
雨がふっていたり、晴れていたり、部屋の中にいたり、
ときには、高い山や、海の中だったりします。

 それから数日。
にゃん吉は、テレビを見たり、こどもと遊んですごしていました。
ときどき、家の外を、お散歩します。
外は、晴れている日もあれば、雨の日のこともあります。
にゃん吉は、ブロック塀の上から下を見るのが好きです。
路地を歩くのも、きらいではないのですが、
犬に合うと、吠えられたり、追いかけられたりします。
にゃん吉は、犬はみんな、つながれているものだと思っていました。
ところが、つながれていない犬がいたのです。
以前、路地を歩いていたときに、ずっとずっと追いかけられました。
やっとの思いで、家まで逃げて帰りました。

 にゃん吉の家の近くに、広場があります。
その広場には、いろいろなものが置かれています。
お家の、お母さんは、こどもに、「広場は危ない。」と言ってました。
よそから来た人が、不法投棄するのだそうです。
にゃん吉は、意味がわかりませんでしたが、
あまり広場には、近づかないようにしていました。
その日、ブロック塀の上から広場を見ていた、
にゃん吉は、テレビを見つけました。

 にゃん吉は、テレビに近づいてみました。
画面は、白いままで何も見えません。
おうちで、お母さんがやっていたように、
スイッチのところを押してみようと思いました。
スイッチは、おうちのテレビと同じようについています。
にゃん吉は、テレビの前に立ち上がって、
手でスイッチを押します。
なかなか、スイッチが押せなかったのですが、
やっと、カチッという音がしました。
画面が白くなって、中が見えるようになるかと思いましたが、
いつまでたっても、白くなりません。
もう一度、にゃん吉は、スイッチを押しました。
でも、テレビの画面は暗いままです。
にゃん吉は、テレビの後ろに、まわってみました。
後ろから見ても、家のテレビと同じ形をしています。
にゃん吉は、テレビの上に、ぴょんと飛び乗りました。
画面が見えないので、どうしようかと考えています。
テレビの上は、広くて平らになっています。
お昼寝の時間になったので、そこで丸くなって考えることにしました。

 テレビから、飛び降りた、にゃん吉は、
テレビの画面に向かって飛び込みました。
すると、ふしぎなことに、にゃん吉の身体は、
テレビの画面の中に、吸い込まれるように入ってしまいました。
前に、おうちのテレビの上にいた時と同じです。
ところが、今回は、前の時とは違っています。
景色は、真っ暗なままです。
そして、にゃん吉が、三歩も歩くと、壁にぶつかります。
外に出ようと思いますが、外も暗くて出口がわかりません。
とても暗くて、狭い空間に閉じ込められてしまったのです。
にゃん吉は、ばたばたと暴れましたが、
すぐにかどに、ぶつかってしまいます。
何時間も、あっちに行ったり、こっちに行ったり、
でも、狭いので、すぐに身体が、どこかにぶつかります。
にゃん吉は、あせりました。

 そうしているうちに、ふと身体が浮いている感触になりました。
いそいで受身をとりました。
にゃん吉の身体は、広場のテレビの前にありました。
でも、広場は夕暮れ時もすぎて暗くなっています。
こわくなった、にゃん吉は急いで、おうちに帰りました。
幸い、まわりの景色は、にゃん吉が、いつも見ている景色と同じです。
おうちに着くと、みんなが待ってくれていました。
にゃん吉は、ほっとしました。

それから、にゃん吉は、広場へ行かなくなりました。


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