巡礼ライダー - にゃん吉一代記
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巡礼ライダー



夢をみた。
バイクに乗っていた。なぜかオンロードバイクでオフロードを走っている夢であった。
昔は、道路も今ほどは整備されていなかった。
国道でさえ、山間部に入ると、未舗装の道路があり、「酷道」などと揶揄していた。

目が覚めて、一人の人を思い出した。
名前も覚えていないし、顔もおぼろげにしか覚えていない。
どこに住んでいるのか、当時は知っていたのだが、今となってはどこであったか。
遠くに住んでいた人との記憶しかないのだ。

バイクに乗りはじめて、まだ日が浅い頃だった。
高校を卒業して、すぐの頃だったと思う。
その頃は、峠を走ることが楽しみだった。
一休みしようと、自販機のある広いところにバイクを止めて、缶コーヒーを飲んでいた。
ソロ・ツーリングらしきバイクが、となりに止まった。
スズキ GS550 だ。
25歳ぐらいだろうか。大学を卒業して数年という話は後から聞いた。
「こんにちは。地元の人ですか?」
不意に話しかけられた。
「はい。」
「ここへ行きたいのですが。」
差し出された地図を見ると、山中の寺に印がついている。
過去に徒歩で行ったことのある寺だ。
当時、巡礼の寺の中では、最も難所と言われていた寺だった。
過去に、一度だけ行ったことはあったが、山の入り口から徒歩で3時間ほどかかった。
「なぜ?」
ツーリングのライダーに出会うことは多い。
県外から来たライダーに道を尋ねられることは珍しくはないが、行き先が変わっている。
聞くところによれば、長期の休日を利用して、友人と二人で、四国一周のツーリングを計画していたらしい。
ところが、その友人は旅行の予定の少し前に事故で亡くなってしまったそうだ。
一緒に走っている時に、彼の目の前で起きた事故だったとのことだ。
バイクに乗ることをやめようかとも思ったらしいが、二人で計画していた最後のツーリングをしてみようと思ったと言う。
そして、四国一周の計画は、四国八十八箇所巡りの巡礼へと変わったとのことだ。
ずいぶん仲のいい友人だったのだろう。
「わかりました。途中まで案内します。」

今では、その寺の近くまで道路が整備されて、自動車でも簡単に行ける場所になっているが当時は長距離を徒歩で歩かなければならなかった。乗り物で最も近づける道路は、一般的な道路ではないため目標となるものや標識も、ほとんどなかった。地元の人以外は、わからないようなところだ。実は、親戚の親父が郵便配達員だったのだ。迷惑なことに道なき道の頂上にあるような、その寺宛の郵便物もある。過去に一度、行った時も、その親父に道を聞いて行ったのだ。ちなみに、その親父も郵便配達用のバイクで山頂付近まで道なき道を走っていたらしい。たしか125ccぐらいのバイクだったと思うがオフロードバイクと言える代物ではない。あの親父、モトクロスの世界に生きていたら超優秀な選手となっていたかもしれない。

バイクを連ねて、寺を目指す。
オンロードバイクが二台なのだが、すぐに未舗装の細い道路に入っていく。
しばらくは、バイクであれば走れる道路であるが、砂利道であったり深い水溜りのあるような道路だ。
当時は、まだバイクに乗り始めたばかりだったので、なかなか困難な道路であった。
過去に自転車では走ったことはあっても、バイクで走るのは初めてだった。
彼は、550ccの大型バイクなのに、車間を保って着いてきている。
ミラーを見なくても、エキゾーストノートでわかる。
こちらは、ヤマハ RZ250R。ピーキーな2気筒の2ストロークだが、GS550は、4気筒4ストロークだ。
完全な獣道になってきた。たまにバイクのタイヤの跡があるのは、郵便配達の親父のバイクのタイヤの跡だ。

酔っ払った時には、親父の話は大きくなる。このあたりを走っていて、いつもはなかった木の根のようなものがあった。バイクで乗り越えようとタイヤを乗せたら、突如、木の根が動いた。ぎょっとして見ると、全長数mの大蛇の尻尾だったと言う。今にして思えば、どっかの神話みたいな話だ。あの親父、スサノオノミコトだったのか。

人が一列になって、やっと歩けるような道路だ。

別れ道まで、走ってきた。
ここから坂を登ると、寺に向う。
まっすぐ行く獣道の先に何があるのかは、知らない。山としか言いようのないところだ。

バイクを止めた。
「ここから先は、歩いたほうが、いいですよ。一本道です。」
こちらは、限界だった。それ以上、先までは走れない。道路が険しすぎるのだ。
「坂にもバイクのタイヤの跡がありますね。もう少し先までバイクで行ってみます。」
ヤマタノオロチも恐れぬ発言である。
普通の人なら、バイクで登ろうなどとは、決して思わない勾配の坂なのだ。
「こんなところまで、案内してもらってありがとう。よかったら住所と名前を教えてください。」
互いに、住所と名前をメモに書いて交換した。

「それじゃあ、お気をつけて。」
彼は、坂道を登っていった。
GS550の巨体をいとも簡単に操って、走り去って行った。
「上手い。」
本当に、バイクが好きでGS550でいろいろなところを走っているのだろう。
無駄に回転数を上げすぎることもなく、スムーズに体重移動をしてやらなければ、こんな坂は到底登れない。
それを、重量のあるオンロードバイクで簡単にやっているのだから凄い。
オフロードバイクであっても、躊躇するような坂道である。

帰途についた。
慣れない未舗装の細い山道である。ガードレールなど存在しない。
下りも、かなり怖い思いをした。



それから、20日ほどたった頃だ。
一通の封筒が届いた。
くだんの彼からの短い手紙であった。
「無事に八十八箇所を巡って帰宅しました。その節はありがとう。バイクには乗り続けることにしました。近くに来られることがあれば、ぜひ、連絡してください。」そのような内容であった。
そして、写真が一枚。
くだんの寺の山門の前で、GS550と一緒に彼が写っていた。



酔っ払って、スサノオノミコトになった郵便配達員の親父に、その写真を見せてやった。
親父も一瞬、びっくりした顔になった。
「こんなに大きい単車だったら、わしは富士山の頂上まで登れるぞ。」
いやはや、負けず嫌いのスサノオノミコトである。
この勢いなら、太平洋で釣りをさせれば鯨の一本釣りでもやりかねない。


GS550 の彼には短い返事を書いた。
その後、近くに行くようなことがあれば、もう一度会ってみたいと思ったのだが、その機会はないままである。
一期一会とは、このようなことを言うのであろうか。



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