磯のジョギンガー - にゃん吉一代記
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磯のジョギンガー



日差しが強くなってきた。
この時期になると、にゃん吉は毎年、懐かしい男を思い出す。
昭和から平成に変わろうとする頃である。
にゃん吉の趣味は、磯釣りであった。
前日より出かけて行って、瀬渡し船で磯に渡って釣りをするのである。
その辺りの乗り合いの瀬渡し船は、夜明け前に港を出る。
船の定員いっぱいの釣り客を乗せていることもある。
夜明けと同時に釣り客を次々と磯におろしていく。
一つの磯は、小さい磯だと、1人から2人しか上がれない。
大きな磯であれば、10人以上上がれる磯もあるが、釣れる場所は限られている。

磯釣りの服装は、知らない人が見たら異様に映るであろう。
磯は危険なので、ライフジャケットを着用する。ファッショナブルな物もあるが救命胴衣である。浮力を持たせるためには、どうしてもゴワゴワする。
足元は磯靴である。底はスパイクのものや、フェルトのものや、両方を採用したものなど、いろいろあるが、ほとんどの人はブーツタイプのものを履いていた。磯は、よく滑る。特に有名な磯は、スパイクで磨かれるため、見た目以上に滑るのだ。
ここまでは、磯で釣りをするための標準装備といったところだ。
この他に、多数の人は、尻当てを身につけている。今風の言葉で言えばヒップガードだ。昔は動物の皮を加工したものが使われたりしていたようだが、現在では、ネオプレーンなどの素材のものが使われる。ズボンを破らないためと、濡らさないために、お尻の部分をガードするのだ。見た目は、ズボンの上に、化学繊維でできたパンパースをつけているようで、超かっこ悪いが、これはいい。冬場も、あまり冷たさを感じないし、座り込んでも冷えにくい。実は、船釣りを始めてからも、にゃん吉は愛用していた。
後は、帽子と偏向グラスといったところであろうか。
海の照り返しの紫外線は、とても強い。海面を観察するためにも偏光グラスは役に立つ。浜田省吾さんのサングラスのように、真っ黒な偏光グラスをかけている人は多い。

前述したように、瀬渡船は夜明け前に出港する。今の時期であれば、午前6時前には出港だ。
夜明けと同時に最初の客を、最初の磯に降ろすと、他の磯は早い者勝ちになる場合もある。
瀬渡船は、全速で磯場を、かけめぐって、できるだけ希望のありそうな磯に、釣り客を次々と降ろす。
そして、午前9時から10時頃にかけて、瀬渡船は、降ろした磯に回っていくのである。
釣れない客の場所替えや、弁当を頼まれた客に弁当を届けたりする。
そして、最後は、午後2時から3時頃に、瀬渡船は降ろした磯から客を回収して港に帰る。
にゃん吉が、よく行った磯は、このような感じであった。
1つの港から、10隻程度の船が出て、磯を取り合う。
1つの船に、10チーム、30人以上の釣り人が乗っているので、けっこう、にぎやかであった。

初夏のある日のことであった。
その日は、朝から蒸し暑い感じであった。
伝説の男は、暑がりだ。
磯釣りをする人は、冬場は防寒に気をつける。
夏場は、薄着にはなるが紫外線と怪我を避けるために肌の露出は極力控えるのだ。
伝説の男は、その常識に真っ向勝負をしかけた。

帽子は、麦わら帽子、ストローハットである。
偏光グラスは、かけている。
そして、船に乗る、みんなが最も驚いたのは、その下であった。
まるで、桑田さんが、「勝手にシンドバット」でデビューした時のような、ランニングシャツに、ジョギングパンツ。
その上に、ラフにライフジャケットをつけている。
そして、尻当てなのだ。
ジョギングパンツから、足を露出させた後で、磯ブーツを装着している。
これで転んだら、藤壺で傷だらけのローラになる。

「みんな、なぜ、そんな暑苦しい格好してるの。」
伝説の男は、平然と言ってのけた。
「I am 磯のジョギンガー。」
などと、異様な格好で、軽口をたたいていたのであった。
磯釣り歴のない人間なら、わからないでもないが、伝説の男は、にゃん吉と変わらない磯釣り歴であった。
夏場に、肌を露出して海に出る無謀さは知っていたと思うのだが。

夜明けとともに、磯に渡る。
朝は、夜明けの時期は、釣れることが多い。
そそくさと準備して、釣りを開始する。
まだ、日差しは強くないが、汗ばむ陽気なのであった。
磯のジョギンガーは、「快適・快適」と言いながら釣っている。
そして、約1時間後、日差しがだんだん強くなる。
午前7時頃には、快適と言う言葉は全く発さなくなった。
午前9時頃になる頃には、ジョギンガーの口数は極端に減っていく。
ほとんど無言なのだ。
肌を露出していない釣り人は、暑さにも慣れてきて動きが活発になる。
ところが、ジョギンガーは、どんどん動かなくなってくる。
ふと、ジョギンガーを見ると、露出した肌は、すでに赤みを帯びていた。

午前10時頃、ジョギンガーは虫の息であった。
見回り船で、港に帰ったほうがいい。近くにいた釣り人は、みんな、そう勧めたのであった。
しかし、途中に何度かあった、食いのたつ時間帯に、ほとんど動きの止まっていたジョギンガーは、何も釣れていなかった。男ジョギンガー、ボウズでは帰れない。いや、帰ろうとしないのであった。
弁当の時間だ。いつもなら待ち構えたようにして、どんどん食べるジョギンガー。本日は食も、あまり進まないようだ。

かくして、後半戦に突入。
この時間になれば、日も高く上がり身を隠す日陰もない。
長袖のシャツを着ていても、身を焼く日差しが痛いのである。そんな状況の中でも素肌で挑戦する、磯のジョギンガー。男である。
ジョギンガーの肌は、見る見る赤くなっていく、もはや麦藁帽子のつば以外に彼を守る部分は全くない。
餌をつけて、投げ入れる。その動作は、どんどん緩慢になっていく。浮きに当たりがあっても、合わせるタイミングが遅すぎる。普段は、一人いるだけで磯の周辺の魚が逃げてしまうほど、やかましい男なのだが、ぜんぜん喋らない。
そして、ときどき、よろけるのだ。
熱中症とは、こんな症状を言うのであろう。

納竿の時間がやってきた。
磯のジョギンガーは、最後まで竿を振っていたのであった。
その露出した肌は、人間としては、最も赤い肌になっていた。
服でさえ触れられると痛いほどであったようだ。
次の日には、いたるところに火傷のような水泡ができていた。

それ以降、磯のジョギンガーの姿を見たものは誰もいない。


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