2019年08月 - にゃん吉一代記
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ごるご君 働き方改革 あの世で、IT革命 その1



この物語は、フィクションである。
実在の人物、団体、あの世の人物、団体、企業等とななんら関わりは、ございません。





最近、死神さんと絡みの多い、ごるご君だ。

ごるご君 働き方改革 死神のセキュリティチェック

ごるご君 働き方改革 うしろの 太郎


太郎さんを霊界に帰してから、ごるご君と太郎さんは、LINEを通じて近況を報告しあっている。
「5,000万円持って帰るの忘れちゃった。」
ごるご君が、最後に涙マークを入れて、LINEを送ると、
「ちゃんと死神さんに預けてあります。」と、返信があった。

前回、上の世界に行った時に気になった、待合室のことも聞いてた。
昇天した人は、お迎えの人に連れられて、上の世界まで行く。その後、死神さんがチェックをして、閻魔大王と面談をして、先々の行き先を決められる。
死神さんのボディーチェックに関しては、セキュリティーゲートの設置で、ほぼ無人化できた。
その前の、お迎えの人の人手不足と高齢化による重労働は、ドローンを活用することで、大いに働き方改革ができた。
これらの提案のおかげで、上の世界では人気者になっている、ごるご君であった。

効率よく、閻魔大王との面談の手前まで来られるようになったのはいいが、閻魔大王に渡す資料作りに時間がかかり、待合室で待つ人が多くなっているらしい。前回、上に行った時は、死神も事務室の人を手伝って忙しそうだった。事務の人が閻魔大王に渡す資料とは、昇天する人の下の世界での行いらしい。事務室の人が、昇天する人の一生を見る時は、その人がまさに亡くなろうとする瞬間に、早送りして確認する。その瞬間を、下の人たちは、「走馬灯現象」などと呼んでいる。当の本人にとっては、一瞬の出来事なのだが、何人もの一生を早送りで見ることは、事務の人にとっては、重労働だろう。しかも、事前の準備なしに、今際の際に映像を見て、資料を作っていたのでは、資料作りが遅れるのも仕方ない。資料が少なかったり、間違っていたりすると閻魔大王の面談時間が長くなって、閻魔大王の機嫌が悪くなるらしい。死神は、閻魔大王の機嫌が悪いと、胃薬を飲んでいるそうだ。

太郎さんから、このことを聞いた、ごるご君は、次なる改革を考えてあげることにした。
金がかかっても、死神に払わせればいいだけだ。


この世界では、いろいろなデータが、集められている。インターネットが普及してから、データの共有も簡単になったし、データの閲覧も簡単だ。しかも日本では、マイナンバーという制度が始まって、一人一人のナンバーがある。戸籍が無い人のデータの収集は困難かもしれないが、そんな人は、ほとんどいない。
マイナンバーに紐付けした、各人のデータをあらかじめ集められるだけ集めておけば、今際の際にあわてる必要もない。よく病院でやっている、電子カルテのあの世版を作ればいい。フェイスブック、ブログ、ツイッターなど本人のインターネットへの投稿なども資料として入れておけば、昇天する人の、人となりが、いろいろな角度から見えるに違いない。点数化できる項目は点数化して、それ以外の項目を人力で加味すればいい。

言うは簡単だが、これだけのシステムを組み上げるとなれば、システムエンジニアに頼ったほうがいい。ごるご君は、つてを頼って、NECのシステムエンジニアを引き抜くことにした。年棒1億円ぐらいで契約して、死神から1億5千万ぐらいもらえば、ごるご君も少しは儲かる。ごるご君は、NECのシステムエンジニアの仲野さんをスカウトした。仲野さんは、年棒1億円の話に簡単にのってきた。ごるご君は、まずは、サンプルとして、10万人ほどのデータの収集と点数化を依頼した。仲野さんは、多くのデータベースを駆使して、電子カルテのサンプルを作りはじめた。
「サンプルの完成まで、どの程度の時間がかかりそうですか?」
数日後、仲野さんに尋ねた。
「どれだけのデータを集めるかによって違いますが、サンプルは、後1ヶ月ほどで何とかなりそうです。」
仲野さんは、少し疲れたような声で答えた。
「なにか困ったことでも?」
ごるご君が聞いた。
「集まるデータが偏るのではないかと心配しています。省庁や企業のデータベースにアクセスできればいいのですが、個人情報の保護が叫ばれていますし、不正アクセスは犯罪にもなるので、どうしたものかと考えています。」
「犯罪者になるのは、いやですよね。」
「そうです。でも、データ量としては少なすぎるのが気になります。」

「それについては、知り合いに相談してみます。他に困ったことはないですか?」
「今は、自分の部屋で仕事をしていますが、もう少し落ち着いて働ける場所があれば、助かります。」

考えてみれば、ごるご君のアパートも狭いし、仲野さんの部屋も広くはない。
職場としての環境がいいとは言えない。
「それに関しても、善処します。もう少し、待っていてください。」

仲野さんと別れた後、ごるご君は死神に電話をかけた。
「もしもし、死神さん。ごるご君です。」
「ああ、ごるご君、ご無沙汰しています。お元気ですか?」
「元気、元気。ところで僕の、5,000万円は、ちゃんと保管してもらっていますか?」
ちょっと間があって、
「ええ、ちゃんと保管しています。」死神が答えた。
なにか怪しい。

まあ、今は、それはいい。
いつでも取り立てることはできる。

「ところで、お願いがあるのですが。」
「はぁ。」
ごるご君のお願いは、怖い。
死神は、ごるご君と関わると何らかの被害を受ける。
実は、ドローン購入費の、5,000万円の稟議が今も通っていない。
会計局では、様々な面から調査が入り、次回からの購入は、入札になりそうな気配だ。
追加購入は、1機700万円と、ごるご君に言われている。
他から購入するかもしれないとは言えない。ごるご君に、この現況を伝えたりすると、死神自身が、ごるご君に責められる。
悲しい中間管理職であった。


「ねぇねぇ聞いてる?」
ごるご君の声だ。
「はい、聞いています。」
「そっちの世界に、凄腕だったハッカーの人いない?」

ごるご君は考えた。
官公庁や企業のデータに不正にアクセスすれば犯罪なのだが、上の世界からの不正アクセスなら見つかることも少ないだろう。仮に見つかって当人が特定されたとしても、あの世まで逮捕しに来れる警察官はいない。完全犯罪だ。

「はっかーですか?すーっと冷たい?」
何年も下界に下りたことのない死神は、ものを知らなさすぎる。
「だれでもいいから、IT関連の仕事とかしていた人と電話変わって。セキュリティーゲートの係の人でもいいし。」
セキュリティーゲートまではハイテクで、その先は旧態依然な上の世界だ。
セキュリティ・ゲートの責任者の人と変わってもらった。
「もしもし、セキュリティ係の銭形です。」
「こんにちは、ごるご君です。」
「ああ、ごるご君、お元気ですか?」
「元気ですよ。セキュリティゲートは、順調ですか?」
「おかげさまで、順調に動いています。」
「ちょっと、お願いがあるのですが。」
「何でしょうか?」
「上の世界で、人を探して欲しいのですが。」
「どんな人ですか?」
「ちょっとヤバめの人なんだけど、企業や省庁のパソコンに侵入できる、ハッカーの人。探せますか?」
「ああ、それなら知り合いに頼めば、すぐに見つかると思います。」
「できるだけ、凄腕の人がいいんだけど。」
「何か悪いことをたくらんでいるのですか?」
「合法とは言えないかもしれないけど、・・・・・。」
ごるご君は、事務室の書類の件をかいつまんで、説明した。

だまって聞いていた、銭形さんは、関心を持ったようだ。
「それは、おもしろそうですね。」
「うまくいったら、楽になる人も多いと思います。」

「わかりました。1週間もあれば何人か探すことはできると思います。でも、地獄に落とされている人も多いかもしれませんね。地獄に落とされていると、閻魔大王の許可がないと、ここまで連れてこれません。」
「そこは、死神を通して、上手く言っておいて。」
「一応、やってみます。何人か見つかったら、連絡します。」
「よろしく、お願いします。」
「はい。それでは、死神さんに代わりますね。」

「死神です。」
「銭形さんの言うこと聞いて、ちゃんとやってね。」
「内容がわからないのですが。」
「それは、後で、ゆっくり聞いて。それと、下で事務所借りたいのだけど、必要経費出してくれる?」
「いくらぐらいですか?」
「3臆円ぐらいかな、年間。」
ごるご君は、少しふっかけた。
「それは、私の一存では決めかねます。」
ノーと言いたいが、ノーと言えない死神だ。
「最近は、会計局もうるさくて、先に稟議通さないと、なかなかお金も出ません。見積もりとか取ってもらえますか?」
「そんなもん、必要ないでしょ?必要だったら偽造するけど。」
「3年ほど待ってもらえませんか?」
「ふざけるな!そっちの世界と違って、こっちの世界は光陰矢のごとしなんだ。3日以内に用意しておけ。」
ごるご君の怒りに火がついた。
こうなると、死神さんは逆らえない。
「がんばってみます。」

「それじゃ、アルバイトが休みの日に、そっちに行くから、届けも出しておいてね。よろしく。」

ごるご君は、死神の次の言葉を待たずに電話を切った。


ごるご君は、アパートの屋根に無線LANの中継局を取り付けた。電波が弱いかもしれないが、それについては、後で考えることとしよう。死神たちにプレゼンテーションしなければならない。仲野さんに、パワポの資料作りをお願いした。「サンプルのデータベースは後でもいいので、パワポの資料、1週間ぐらいで作れますか?」
「1週間もあれば大丈夫です。」
「落ち着いた所で作る方が効率がいいですよね。ベルクラシックのスイートルームを10日ほど借りたので、そこで作業してください。ルームサービスで好きな物を食べてもらってかまいません。飲み物もお好きにどうぞ。Suicaぺんぎんさんのケーキも食べていいですよ、」
プレゼンに成功しようが失敗しようが、かかった費用は全て死神に請求すればいい、ごるご君は、大盤振る舞いだ。

 次の日に、ごるご君は、ノートパソコンを5台ほどと、データ保存用のデスクトップパソコンを1台と、プロジェクターやプロジェクター用のスクリーンなどを買ってきた。これで、プレゼンの資料が完成すれば、仲野さんも一緒にプレゼンに行こう。ごるご君はハッカー探しの近況を聞いてみることにした。死神に連絡しても、埒が明かないので、太郎さんに電話をかけた。
「はい、太郎です。」
「太郎さん、こんにちは。ごるご君です。」
「こんにちは、ごるご君、お元気ですか?」
「元気、元気。太郎さんは?」
「元気です。ありがとうございます。」

「ところで、セキュリティ係の人たちは、お元気ですか?」
「元気にされています。」
「近くに、誰かいらっしゃいますか?」
「じゃ、銭形さんに替わりますね。」

「セキュリティ係の銭形です。」
「こんにちは、ごるご君です。」
「こんにちは。」
「ハッカーは、見つかりましたか?」
「ええ、順調にみつかっています。下の世界で、評判になったウイルスを作った人物もいました。『とっぽいの木馬』を作った人です。」
「あの有名な、ウイルスですか。」
「そうです。どこのパソコンにでも簡単に侵入できると言われてます。ただ、やはり地獄に落とされていたので、上の世界まで連れてくるには、少し時間がかかります。死神さんが、ただで働かそうとしているようで、それも少しもめるもとになっています。」
「死神って、変なところで、セコいですね。ハッカーさんに、私が行った時に、年棒制か成果報酬で必ず満足させるからって言っておいてください。」
「わかりました。閻魔大王様の許可は、もう取れているようです。」
「それは、よかった。近々行きますので、皆様によろしくお伝えください。」
「わかりました。」



1週間後、仲野さんから、プレゼンテーションの資料ができたと連絡があった。
ごるご君は、仲野さんに、「一緒にプレゼンテーションに行きましょう。」と言った。
「海外なら行ったことあるのですが、残念ながら、あの世には行ったことがありません。帰ってこれるのですか?」
「大丈夫です。僕はもう、3回ぐらい往復しています。」
「どんな乗り物で行くのですか?往復何日ぐらい、かかるのですか?」
「すぐですよ。日帰りもできるし。今回は、1泊2日ぐらいで行きましょうか?」
「わかりました。」
仲野さんは、不安そうだ。
普通に考えると不安なものかもしれない。
まあ、仕方ない。

次の月曜日と火曜日は、ごるご君の東急ストアのアルバイトは連休だ。
今日は、金曜だから、今から死神に連絡しておけば、大丈夫だ。
ごるご君は、死神に電話をかけた。

「もしもし、死神さんですか?ごるご君です。」
少し間があった。
「こんにちは、ごるご君。お元気ですか?」
「元気、元気。ところで死神さん。月曜と火曜日に、そっちに行きたいので許可とっておいて。」
「わかりました。今回は泊りですか?」
「ちょっと、やりたいことがあって。あと、社員の人も一緒に行くので、その人の許可もよろしく。」
「そんな、簡単に往復できるものではないのですが。特に初めての人は審査も厳しくなります。」
「仲野さんは、大丈夫です。なんだったら僕が保証人になります。」
「いえ、そういう問題ではなくて・・・。」

「あと、月曜は泊まりになるので、宿の予約もしておいて。夜は、みんなで宴会しましょう。料亭の予約もよろしくね。」
「ご予算は、どのぐらいですか?」
「高くても安くてもいいですよ。経費だから。」
ごるご君は、さらっと話を進める。
死神さんは、言質をとられないように気をつけているが、いつも押されぎみだ。

「月曜日と火曜日の予定を死神さんのLINEに送っておくから、関係者集めといて。あと、経費のほう、よろしくね。」

ごるご君は、電話を切った。
受話器の向こうでは、死神さんが肩を落としていた。
翌日、ごるご君は死神に、LINEで予定を送った。

月曜の朝は、9時に集合した。集合場所は、ごるご君のアパートの前の空地だ。広い空地だが、広い道路と面する側には、大家さんの息子さんの家が建っている。いわゆる旗竿地だ。ごるご君がアパートに入居した時には、その家は建っていなくて大通りから空地に入れた。ごるご君が海外に出かけている内に、その家は完成していた。大通りと空地の間の通路幅は、1.6mあまりだ。海外に行く前に、ごるご君はメガクルーザーを買って空地の奥に置いていたが、工事が終わると、メガクルーザーは外に出られなくなっていた。大家さんのところに相談に行くと、月々の家賃を500円負けてくれることとなった。
8時40分頃に仲野さんはやってきた。ごるご君は空地で、チヌークにパソコンやプロジェクターを積んでいた。仲野さんは、多くの荷物を持っている。「おはようございます。仲野さん。荷物は、こっちに積んでください。」ごるご君が言った。「おはようございます。ごるご君。これで行くのですか?」仲野さんは眩しそうにチヌークを見て言った。普通の人は、あまり見ることもないだろう。びっくりするのも仕方がない。
「そうです。CH-47チヌークです。ジェット戦闘機ほどではないですが、わりと早く行けますよ。1時間ぐらいで到着すると思います。」ごるご君は簡単に言ったが仲野さんは不安そうだ。
「さあ、乗ってください。ナビに目的地の設定もしてあるので、安心してください。」
仲野さんは、乗りなれないヘリに乗りこんだ。不安だが、操縦席のごるご君は、普通にしている。何とかなるだろうと思った。
「それじゃ、離陸します。」ごるご君の口調は、その辺のスーパーに買い物に行く時と何ら変わらない。仲野さんは、緊張したり不安に感じることが、バカバカしいことのように思えてきた。「よろしくお願いします。」と口をついて言葉が出た。
チヌークは、揺れることもなく離陸した。ごるご君の操縦の腕は確かだ。右旋回が苦手という変わった欠点はあるが、たいていの飛行は左旋回を中心にする。
 機体は一気に上昇する。すぐに都会の景色が小さくなりはじめる。東京タワーもスカイツリーも、すぐに眼下の景色になる。富士山も少し遠くに見える。
「晴れているので、いい景色ですね。こんな景色を見るのは初めてです。」
仲野さんは、うれしそうに言った。
「今日は、いつもより景色がきれいです。」
ごるご君は仲野さんに答えながら、いつか死神も連れてきてやろうか。と思った。
「そろそろ酸素が薄くなってきます。」ごるご君は、酸素ボンベのマスクを準備した。
ごるご君は慣れているが、仲野さんは訓練をしているわけではない。
高山病になったらたいへんだ。
「念のため、これをつけてください。到着すれば必要なくなります。あと20分ぐらいで到着の予定です。」
ナビを確認しながら、言った。
「わかりました。つけておきます。」
少し緊張した声で、仲野さんは言った。
この先は、ごるご君の苦手な右旋回だ。
これまで、乱れぬ姿勢で飛行を続けたチヌークなのだが、少し揺れ始めた。
「少しだけ、がまんしてください。いつもここは揺れます。」
ごるご君は、揺れを気流のせいにして、仲野さんに説明した。
「そうですか。わかりました。」
仲野さんは、素直に納得している。
実は、帰り道では、左旋回なので、あまり揺れない。

揺れがおさまったころには、ぼんやりと陸地が眼前に迫ってくる。
「見えてきましたよ。」
ごるご君が言った。
「ぼんやりと、見えてきましたね。」
仲野さんが答えた。

機体の直前に、陸地が現れるように見える。
標高0mの地点に着陸するような不思議な感じだ。
上空から下降する間隔とは違う。
ごるご君は、一度機体を上昇させる。
地面効果を少なくしないと機体が不安定になる。
高度を保ったところで、ごるご君が言った。
「着陸します。しっかりシートベルトをつけておいてください。」

機体は、下降を始めた。
まもなく、着陸した。
揺れることもなく、スムースに着陸する。
ごるご君は、不整地への着陸は慣れている。
自宅前の空き地に着陸することを思えば、このような広い所への着陸は簡単だ。

ヘリが着陸すると、地上から人々が集まってくる。
手を振って歓迎してくれている人もいる。

ヘリを停止させた。
「降りましょう。」
仲野さんに言った。
仲野さんは、ごるご君について、扉に向かった。
扉を開いて、地面に飛び降りる。
「少し高いので、気をつけてください。」
仲野さんは、下を見てから、地面に降りた。

「ここが、あの世ですか?ごるご君、僕をかついでいませんか?孤島みたいな気がします。」
「そうですね。でも、上昇しただけで到着したでしょう。」
「そういえば、そうですね。」

「ごるご君、いらっしゃい。」
銭形さんが、近づいてきて言った。
「お久しぶりです、銭形さん。こちら、仲野さんです。今回のプロジェクトをやってもらっています。」
「はじめまして、仲野です。」
「よろしくお願いします。銭形です。」

ごるご君は、他の人にも、仲野さんを紹介しながら銭形さんについて、セキュリティーゲートのついた入口に向かった。
お迎えの人たちが、10人ぐらいで出迎えてくれていた。
ぞろぞろと、セキュリティーゲートを通る。
「ここは、空港ですか?」
小さな声で、仲野さんがごるご君に聞く。
「そういえば、セキュリティーゲートやドローンの話は、していませんでしたね。空港ではなく、冥府の入口です。」
「冗談でしょう。成田空港と同じシステムですよ。以前、見学したことがあります。」
「それは、事情があって、成田空港のシステムを使っています。まあ、後で詳しいことは話します。」

セキュリティゲートを抜けて待合室に入る。
この先は、旧態依然の冥府であった。
「昔、お墓参りに行った時の、お寺のようです。」仲野さんが言った。
「それも、田舎のお寺ですよね。」ごるご君は答えた。
仲野さんは、なかなか情景を伝えるのが上手いようだ。
「実は、この先は、僕も入ったことはありません。先の部屋に閻魔大王がいるそうです。今回、仲野さんに作って欲しいのは、その扉の隣にある、事務室のような所の資料です。今際の際に人が、やったことを確認して閻魔大王に渡す資料を作るそうですが、お迎えや入室のスピードが、上がったので、ここで滞留するようです。これを電子化させて、スピードアップを図る目論見です。」
「中を見せてもらえますか?」仲野さんが聞くが、ごるご君も事情を太郎さんらから聞いただけで、入ったことはない。

「こんにちは、ごるご君。」横から声がかかった。
死神だった。かつて死神は、ごるご君の背後に立ったばかりに、えらい目にあっている。決して、ごるご君の背後には立たない。
「あっ死神さん、ちょうどよかった。今回のプロジェクトをお願いしている、仲野さんです。」
「はじめまして、死神です。」
死神は、仲野さんに握手を求めて手を差し出してきた。
仲野さんは、小声で、ごるご君に、「握手しても大丈夫ですか?帰れなくなったりしないですよね。」と、聞いた。
ごるご君は、「大丈夫、大丈夫、心配しないでください。」と、仲野さんに言った。
おそるおそる、死神と握手をする仲野さん。
内心、ヒヤヒヤだった。そして、死神の手も、この世のものとは思えないほど冷たかった。
思わず、「冷たい手ですね。」と、仲野さんが言った。
死神は、仲野さんの手をしっかり握ったまま、「猛暑で暑いので、さっきまで、氷を握っていました。よろしくお願いします。」と、言った。
「おまえは、寿司職人か!」仲野さんは、つっこみたかったが我慢した。なにしろ初対面の死神だ、気にさわったら帰れなくなるかもしれない。

「死神さん、扉の隣の部屋を見せてもらってもいいですか?」
ごるご君が死神に聞いた。
「あの部屋は、部外者以外立ち入り禁止になっています。」死神は、おそるおそる答えた。
「でも、死神さんは時々入っているでしょう?」
「私は、部外者ではありません。あの部屋の資料には個人情報も多く含まれているので、簡単に部外者を入れるわけにはいかないのです。」
「ところで死神さん、ドローンの代金の5,000万円は、どうなってる?」
死神の顔から血の気がひいた。

「今回だけですよ。」
死神は、事務室の扉に向かった。
「ちなみに、この部屋の名前は?」
ごるご君が聞く。
「そういえば、特に部屋の名前はありません。ほかに部屋が多くあるわけでもないですし。」
死神は、部屋の扉を開けた。
「部外者がかってに入ると、二度と部屋から出られなくなることもあります。処刑されてしまうこともあるので、かってに入ろうとしないでください。まあ、普通では扉は開かないようになっているので間違って入ることはできませんが。」死神が言った。
死神についいて、ごるご君と仲野さんは、部屋に入った。
待合室から見た、この部屋は病院の受付のような雰囲気であったが、そこは廊下のようなものであった。さらに奥に進むと映写室のような部屋がある。部屋は、10室ぐらいありそうだ。「使用していない部屋にご案内します。」死神は、扉を開けるでもなく壁を抜けるように部屋に入っていく。薄暗い部屋だ。
「ここで、閻魔大王様にお渡しする資料を作っています。」
死神が説明した。
部屋には、小さな机と椅子がある。
よく、刑事ドラマで出てくる取調室を薄暗くした感じだ。
「こんなところで資料が作れるのですか?」
仲野さんが不思議そうに尋ねた。
「ここで亡くなる方の一生を確認して、あらましを閻魔大王さまにお伝えすることになります。」
死神は、少し得意そうに言った。
「ねぇねぇ、ちょっとやってみて。」
ごるご君が言った。
「それは、今際の際の人か幽体離脱した人がいないとできません。ここは、そういう所です。」
そんな都合のいい人は、なかなかいない。
はっと、ごるご君は気がついた。
「そういえば、僕は幽体離脱しているのではないですか?前に戦闘機で来たときも身体は戦闘機に残っていたし。」
死神は、一瞬ぎくっとした。
「それは、そうですが。」
「それでは、僕の一生を見せてください。まだ残っているけど。」
「いや、それは・・・。個人情報もありますし。」
「だって、この中で普通なら見ることができないのは仲野さんだけでしょう。僕は仲野さんに見られても困らないのでやってください。」

「怒らないですか?」
気弱そうな声で死神が聞いた。
「大丈夫、サンプルだし。」
「わかりました、それでは少しだけ再生します。」

机の前に、ぼんやりと光がさす。
取調室であるなら、鉄格子の入った窓のあたり、被疑者の背中側のあたりの壁に、スクリーンがある感じだ。

『ごるご君 サンプル映像』
制作費をけちった、オリジナルビデオのタイトルのようだ。
そして、突然に再生が始まった。
赤ちゃんの頃の、ごるご君が出てくる。
そして、スクリーンのごるご君は、どんどん成長する。
家の中では、ブリーフのみで過ごしている。
小学生、中学生とどんどん成長していく。
途中で、一瞬、画面が止まる。
そして、すぐに同じよう早いスピードで再生され始める。
外国の風景、東急ストアの風景、死神をはりたおしたところ、成田空港、東急ストアと風景は流れて再生は終わった。
一瞬のようでもあるし、長い時間だったような気もする。

「どうですか、この映像を見ながら、この部屋の職員は、こちらへ来る人の通信簿を作って閻魔大王様にお渡しするのです。」
死神が言った。
「この映像は、誰がつくるのですか?」
ごるご君が聞いた。
「それは、ご本人の身体に残った記憶や残っていなかった記憶、それと、ご本人の係累の方の記憶や、ご本人に関った方の記憶などが総合されて自動的に再生されます。亡くなった方が、一生の出来事を一瞬の内に見るような気がするのは、ここで再生されいるからです。」
「走馬灯ですね。ほんとうにあるとは思いませんでした。」
仲野さんが、つぶやいた。

「ちょっと気になることがあったんだけど。」
ごるご君が言った。
「映像の途中で、一瞬止まるシーンがあったけど、あれは何?」

「あれは・・・・。」
死神は、言葉に詰まる。

「なになに?」
ごるご君は気になってたまらない。

「あれは・・・、評価ポイントです。ポイントが高いところです。」
死神は小さな声で言った。

「それじゃ、死神さんが後ろに立ったのに、評価下げられるわけ?」
ごるご君が不機嫌そうに言った。

「いえ、あれは私の不注意なので、評価には関係なくなると思います。」
死神は、気弱そうに小さな声で言った。
「だから見せるのイヤだったのに。」これは、死神の心の声だ。

「ちゃんと修正しておいてね。」
ごるご君は、きっぱりと言った。
「評価のポイントって他にはどんなところ?」

「それは、殺生をしたり他の人や生物などを苦しめたりするとポイントが下がります。人助けや人命救助、動物愛護など様々な要素でポイントが上がることもあります。」
死神が言った。

「今の映像で、作られた僕の点数って、どのくらい?」
ごるご君は、気になってたまらない。

「それは、極秘事項ですので、公開できません。」
死神は、必死で言う。

そのとき、入口にぼんやりと人影が現れた。
事務服の女性だ。戸田恵子さんのような雰囲気だ。
「死神さま、13番の通信簿です。」
女性は、死神に通信簿を渡す。
ごるご君と仲野さんは、女性から死神の手に渡る通信簿を注視している。

通信簿 『ごるご君』と表に書かれてある。
死神の手に渡る前に、ごるご君は横から通信簿をかっさらった。

「ダメです。」
死神は、通信簿を取り返そうとする。
そうはさせじと、通信簿を持って、ごるご君は死神に背を向けた。
背後から死神が迫る。

「俺の後ろに立つな!」

ごるご君の回し蹴りが死神のテンプルに炸裂する。
死神は、倒れこんだ。
倒れた死神の背中に、腰を下ろして、ごるご君は通信簿を開いた。
総合評価2と書かれてある。

「これは、何段階の評価かな?」
冷静な口調で死神に聞く?
「はい、総合評価は。2段階で、2が最高です。」
苦しそうに死神が答える。
なんか、うそっぽい。
他の評価欄には、8や7の数字もある。

ごるご君は、壁の近くに立っている女性に向かって聞いた?
「死神さんの言っていることは、本当ですか?」

「いえ、嘘です。」
女性は、きっぱりと言った。

「やっぱり。すみません、死神はあてにならないので、本当のことを教えてください。」

死神は、ごるご君の下で女性に必死でアイコンタクトを試みていた。
「お願いだから言わないで。」
願いはむなしく・・・。


「はい。それでは申し上げます。」
女性は、ごるご君に向かって言う。
「総合評価は、10段階です。最終的には閻魔大王様との面談で決定されますが、評価が8から10の方は、ほとんど極楽に行けます。4から7の方は、この先の様子を見てから行き先が決められます。」
女性の説明は、わかりやすい。
ごるご君の身体の下で死神は、さらに青ざめている。

「それじゃ、評価2だったら、どこに行くのですか。」
「地獄です。ほぼ間違いなく地獄です。ずっと苦しめられます。下の世では死ぬまで苦しめば終わりますが、この世界ではすでに死んでいるので何千年も何万年も苦しめられます。」
きっぱりと女性は言った。

仲野さんは、思いもよらない展開におどろいて少し後ろに下がって事態を見ている。

ごるご君は、さらに通信簿を見た。
作成者の欄に『戸田』と印鑑が押されてある。
「この印鑑は?」ごるご君が聞く。
「私の印鑑です。」女性が答えた。
女性を見ると、名札に『戸田』と書かれてある。

さらに、ごるご君が通信簿を見ると、承認、決済の両方の欄に『死神』の印が押されている。
「死神は、ずっとここにいたのに、なんで印鑑が押されているのですか。」

「死神様は、忙しいので承認と決済の欄に印鑑を押すようにと、こちらの職員全員にシャチハタを配っています。そんなわけで、私たちが作った資料は、そのまま閻魔大王様にお渡しする資料になります。」

「めくら判かよ!」
仲野さんと、ごるご君が同時に叫んだ。

死神は、ごるご君の身体の下で小さくなって震えている。


「仲野さん、こんな風にデータ作成しているので、ざるになっている部分もあるわけです。『天網恢恢疎にして漏らさず』と言われていますが、寿命ものびて評価にも時間がかかるはずなのに旧態依然な方法を使っています。『天網恢恢疎にして漏らす』です。」
ごるご君が言った。
「ほんとうですね。ちゃんとデータ作成しないと、冤罪に泣く人も出てきそうです。」
仲野さんが言った。

「そうです、僕の評価が『2』になるなんて、おかしいですよね。表面も内面も見ていない。」
ごるご君は、いきどおりながら言った。

「申し訳ございません。」
小さな声が、身体の下から聞こえる。

「ところで、めくら判のこと、閻魔大王に告げ口したら、おもしろそうだね。」
ごるご君は、仲野さんに向かって言った。
「それだけは、どうかどうか、ご容赦ください。何でもいたしますので。」
死神の必死の声が響く。

「どうしようかなぁ。証拠は、ここにあるし。」
ごるご君は、いじわるそうに言った。

「証拠なら、ここにもあります。」
部屋の入口付近の戸田さんがきっぱりと言った。
そして、ポケットから死神のシャチハタを出した。


続く









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Nゲージ KATO 301 EF70



Nゲージ 電気機関車である。


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40年ぐらい前の模型ではないかと思われる。
買ったときは、あまり走るモデルではなかった。



Nゲージ KATO 301 交流電気機関車 EF70


一応、動画にしてみた。
動画の中で多くの写真も使っている。


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次は、客車や貨物を牽引させて登場予定。





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天乃にゃん吉

Author:天乃にゃん吉
ついに半世紀を生きた♂と思ってから、すでに5年以上。
YOUTUBE cat558 もよろしく!
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