怪談 - にゃん吉一代記
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にゃん吉怪談劇場「カミカゼ」



歩いていた。
道路の右端を普通に歩いていた。
左後方からタクシーがオレを追い越そうとする。
一車線の狭い道路だ。
タクシーのフロントフェンダーが見えたとき、オレとタクシーの間を戦闘機のように走り抜けたやつがいる。
あっという間のできごとだ。
カミカゼか?

タンデムの自転車だ。
後ろは、幼稚園児、前はお母さん。

左を見ると抜き去られたタクシードライバーの顔が青ざめていた。




 


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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

にゃん吉怪談劇場『耳なし猫吉』



久しぶりの怪談劇場だ。
う〜ん。こ、わ、い。



 猫吉は、広告代理店でアルバイトをしながら、少しずつお金を貯めていた。猫吉は海外に行きたいと思っている。土壌が汚染しているかもしれない豊洲や日本に未練はない。お乳欲しがる子どももいない。しかしアルバイトでは、なかなかお金は貯まらない。酒もタバコも博打もやらないが、バイトで得た金は日々の生活で、その大半が消えていく。一人暮らしは何かとお金がかかるものだ。外食は高くつくが偏りがちな一人暮らしの自炊は栄養も偏りがちになる。
 アルバイトを始めてから5年以上になる。社員への誘いもあるのだが、日本を脱出したいので責任が重く時間も自由にならない社員よりは、アルバイトのままがいい。そうしている内に、5年以上の月日が流れていた。猫吉の貯金通帳には、1,023,200円の残高がある。5年前は0だった。あと、5年働けば、200万はこえるだろう。昔の郵便局の定額預金のように金利が高い貯金があればいいが今は低金利というより、ゼロ金利のようなものだ。箪笥の中に置いて置くのと金利は変わらない。しかし、甘い言葉には裏がある。銀行では多くの金融商品のパンフレットがあるが、本当に確実に儲かるのなら、わざわざ他人に宣伝しないだろう。と思うのであった。投資も素人には危険だ。過去にブログで人民元を買った話をしていた人がいるが、今では人民元は話題にものぼっていない。きっと損をしたに違いない。しかし、なかなかお金は貯まらない。そう思いながら布団に入った。
 猫吉の住まいは、杉並のはずれだ。東京とはいえ、中心部ほど、ざわついてはいない。鳥の声で目が覚める。昨日から考えていることがある。5年で、ざっと100万円ということは、1日にすると550円以下だ。これを800円まで上げてやればどうなるだろう。計算すると、5年で146万円貯まることになる。1日あたり250円の差は大きい。猫吉は、いろいろ考えた。外食を少し減らせば、できないことはない。よし、がんばろう。今日もバイトに向かうのだ。
 猫吉が勤める広告代理店には、いろいろな広告の依頼が入ってくる。多くは近くのスーパーからの折り込み広告の依頼なのだが、スポットで入る依頼は多岐にわたる。ちょっとしたイベントの広告なども請け負っている。ある日、初顔のお客がやってきた。いろいろなイベントをやっている会社とのことだ。その人の顔は、犬に似ていた。「苦手なタイプだ。」と、初対面の時は思った。イベントの広告を依頼したいとのことであった。営業の社員が出払っていて、応対をした猫吉は、基本的な金額を提示した。後に営業の社員にフォローしてもらえばいい。「詳しい話は、後日こちらからお伺いして説明させていただきます。」そうして、その日は終わった。
 翌日のことだ。広告を依頼してきた会社に行ってみると、一軒家チーフが言う。いつも、「自分に契約できない広告はない。」と、豪語している人だ。実際に営業成績は常に会社のトップだ。一軒家チーフは、猫吉に正社員にならないかと勧める人の一人だ。「猫吉君、いろいろな仕事も経験したほうがいいから、一緒に例の会社に行ってみよう。昨日、先方の方と話したのも君だし。」そこで、二人で件の会社に行くことにした。普段は、一軒家チーフが先方に連絡するが、今回は猫吉が連絡した。猫吉は、昨日もらった名刺を確認した。株式会社旭企画、企画開発部、部長、仲村犬吾と書かれている。名は顔を表すこともあるものだ。電話をすると仲村部長は在席していた。訪問したい旨を伝えると、本日ならいつでもどうぞ。と、応じてくれた。それでは今から伺います。1時間後ぐらいに。一軒家チーフと一緒に会社を出た。猫吉の会社は企画会社との取引はあまりない。しかも先方から話が来ている。先方の会社を確認して、その後に調査をしてから取引しなければ貸倒れになる可能性もある。今は回収までをトータルにこなすのが営業の仕事だ。一軒家チーフは、時々そう言っている。先方の住所まで行くと会社はすぐにわかった。新しい感じではないが5階建のビルだ。全フロアーが、株式会社旭企画となっている。入口を入ると受付がある。猫吉が受付に要件を伝えると、「伺っております。」と、受付の女性は、一階の応接室に案内してくれた。すぐに、にこにこしながら仲村が現れた。一軒家チーフと仲村部長の名刺交換が終わる頃には、コーヒーが出された。ひと通りの挨拶の後、一軒家チーフが切り出した。「いつも広告を依頼されている会社さんもあるでしょう。弊社は、スーパーの広告などが主な仕事です。弊社に声をかけていただいた理由を教えていただければ幸いです。」「実は、御社の広告を私は何度か目にしています。おもしろい広告もあるので、デザインをしている会社に興味がありました。」犬の嗅覚は鋭いのであろうか。にゃん吉は何のことかわからない。仲村が続ける。「スーパーの広告にしては掲載する品数は多くなかったり、金額を入れなかったり。あれは、依頼主さんからの希望のみではないのではありませんか。」一軒家チーフも驚いたようだ。「弊社の社長は宣伝のデザインが専門でした。そのため、広告主からの希望のみではなく、弊社で考えたデザインも広告に盛り込みました。広告の効果が得られない時には広告料を割り引くこともしましたが、実際には効果が出ることが多く、広告主様にも喜んでもらっています。弊社では全員がデザイナーとしての感覚を磨こうと、部署や役職に関係なく思いついたデザインを描いています。その中から、数点を選んで全員で討論して、最終のデザインを決定しています。」仲村は、うなずきながら、1枚の広告をポケットから出した。それは、ずいぶん前に、猫吉が考えて採用されたスーパーの広告であった。黒地を基調として赤文字で特売商品のみを掲載した広告だった。この広告は好評だったようで広告主は大いに喜んでくれたようだ。社長は猫吉に特別ボーナスとして、3万円支給してくれたのだ。「弊社も、ありきたりの広告ではなく、斬新な広告を提案してくれる会社を探しています。」仲村が言った。「それでは仲村様、弊社のデザインを見てから、広告を出すか出さないか決めてください。」一軒家チーフはそう言った。「それでは、次の企画の広告を考えてみてください。」仲村が言った。その後、金額的なところを話して、仲村の会社を後にした。
 すぐに、旭企画から広告の依頼が入った。九州旅行のイベントだ。3泊4日の旅行のイベントだ。猫吉の会社でもデザインを考えた。宿泊は、福岡、別府、指宿だった。猫吉は「竜馬伝」と指宿を絡めたデザインを出した。「日本で初めての新婚旅行、坂本竜馬とお竜が訪れた指宿」今回の広告は、このデザインで進むことになった。バックは桜島の写真だ。一軒家チーフは出来上がったデザインをもとに旭企画を訪問した。仲村部長は満足そうにうなずいて、広告を発注してくれたそうだ。今回の広告も、そこそこ好評だったようだ、猫吉は、この広告で、30,000円の特別ボーナスをもらった。「指宿」を「ゆびやど」と読まないように。
 こうして、少しずつだが猫吉の貯蓄額は増えていった。旭企画のイベント広告では、猫吉のデザインが採用されることも多かった。少しの臨時ボーナスの頻度も増えていった。数か月たった。旭企画が、ヨーロッパ旅行の企画の広告を依頼してきた。激安のヨーロッパ旅行企画だ。2週間予定で、宿泊費、朝夕の食事も含まれて80,000円。ほとんど往復の飛行機代だけみたいな価格だ。広告の依頼にやってきた仲村さんに、「僕も参加できますか?」と、猫吉は聞いた。「特に制限はないから、誰でも申し込めますよ。」笑顔で仲村さんは言った。考えることはなかった。猫吉は、社長に休暇をもらいたいと申し出た。これまで、5年以上も勤めている猫吉だ。アルバイトとはいえ、社員に急な予定が入った時などは、その代役もこなしている。準備を含めて、約1ヶ月の休暇となるが、社長は快く了承してくれた。「広告のデザインも決まらぬ内に参加者が現れるとは、幸先がいい。」仲村さんは笑った。出発までには、3ヶ月以上の時間がある。猫吉は、パスポートを取ったり、旅行用品を買い揃えたりしながら、時間がある時は、会社に顔を出して、あれこれと仕事をした。このヨーロッパ旅行の広告のデザインは社長のデザインが採用されることとなった。広告をうつと応募者が殺到した。最初の予定の定員は軽くオーバーだ。広告には、ヨーロッパの青い空と田園風景が取り入れられている。この旅行は、かなり自由な時間が持てる。この景色を直接見てみたいと、思う人も多いだろう。そして格安の参加費だ。人に知らしめることができれば成功する広告だ。そして、その広告にはインパクトがあった。

 猫吉の旅立ちの日がやってきた。記念すべき初の海外旅行の日だ。実は、猫吉は、これまで飛行機に乗ったこともない。旅立ちの前日は早く寝ようと思ったが、なかなか寝付けなかった。夢をみたのだが、どんな夢か覚えていない。朦朧とした意識の中でふわふわとした自分がいる。夢とは、そんなものだ。初の海外旅行も猫吉にとっては夢を叶える第一歩だ。成田空港を、11:30に発つ飛行機で、夢の一歩が叶えられる。12時間40分後には、ロンドンに居る。猫吉は早めに成田空港に到着した。思いがけず旭企画の仲村さんがいる。「おはようございます。」仲村さんは今回の企画が大当たりなので大満足だ。「おはようございます。あなたの会社に広告を依頼してよかった。これ、現地で使ってください。」そういって、猫吉に包みをくれた。「ありがとうございます。」猫吉は包みを受取った。搭乗手続きをしようとカウンターに行くと、猫吉のアルバイト先の社長夫妻がいる。びっくりした。「おはようございます。」猫吉が言うと、社長が、「おはよう、見送りにきたよ。一軒家君も。」と言う。後ろに一軒家チーフもいた。「これ、持っていって。」そういって、社長は包みをくれた。「ありがとうございます。」猫吉は嬉しかった。
 搭乗手続きを、つつがなく済ませて、猫吉は飛行機に乗った。この旅行の飛行機の座席はエコノミークラスのはずだったが、猫吉が案内されたのはファーストクラスの座席だった。仲村さんが気を使ってくれたようだ。席についた猫吉は、仲村さんと社長にもらった包みを開けた。仲村さんからもらった包みには、ユーロが入っていた。10,000ユーロだ。日本円に換算したら、約1000,000円。猫吉は、びっくりした、お礼を言いたいが、もう機上にいる。次に社長にもらった包みを開けた。10,000円札が100枚。つまり100万円。猫吉は感動した。そして感謝の気持ちでいっぱいになった。
 飛行機は無事に成田空港を離陸した。長時間のフライトだ。揺れることもなく快適なフライトだった。猫吉はまどろんだ。長くふわふわした夢をみた。気分がいい。楽しい夢だ。目覚めると、CAが飲み物を持ってきてくれた。これまでに飲んだことのない味だ。旅行は楽しい。猫吉は大満足だ。長いような短いような、楽しいフライトだ。飛行機は定刻にロンドンに到着した。約12時間のフライトだった。
 ロンドンに降り立った。猫吉は、この旅行の大半をイギリスで過ごすことにしていた。その日はリバプールまで移動して1泊することにしていた。マンチェスターとリバプールは見ておきたかった。バスや電車に揺られて旅をする。外の景色も珍しいものばかりだ。約3時間でマンチェスターに到着した。しばし、マンチェスターの街を歩く。雨の多い街だ。古いものも残っている。言葉は難しい、過去に猫吉は駅前留学生だったが、話す人の言葉を全て理解するのは難しい。今回の旅行企画では、パックのような旅行も選ぶことができたが猫吉は、フリープランを選んだ。現地の移動費などで、かなり費用を使うことになるかと思ったが調べてみると案外安い。チェックインの時間に宿に着けばいい。気楽な旅だが時間がたつのは早い。マンチェスターに未練を残しながらリバプールに移動した。明日もリバプール泊だ。翌日はリバプールを歩くことにしていた。ホテルは大きくはなかったが清潔感があって落ち着ける部屋だった。夕食、朝食もルームサービスだ。ほとんど好き嫌いのない猫吉には満足な食事だった、その夜は夢をみることもなく、ぐっすり眠った。
 港湾都市のリバプールは、見るものが多かった。1日では時間が足りない気分だ。いろいろと歩いたら、宿に帰る時間が少し遅くなった。夕食後、ロビーでくつろいでいると、日本人がいた。猫吉より少し若い感じの男だ。男は、猫吉に話しかけてきた。旅先で日本人に会うと嬉しかった。昨日、ロンドンをたってから、日本人はほとんど見かけていなかった。日本の観光客が行くような所に行っていないので当然といえば当然だ。男は、明日はエジンバラに向うという。猫吉も明日はエジンバラに行く予定だ。男も鉄道で移動すると言う。それでは、エジンバラまで、一緒に行きましょう。二人は翌朝の集合時間を決めて、部屋に引き上げた。その夜も、猫吉はぐっすり眠れた。国内の旅行では、なかなか寝付けないことも多いのに不思議なものだ。そうは言っても、そんなに何度も旅行に行ったことがあるわけではない。
 翌朝は快晴だった。ロビーで待ち合わせた二人は連れ立って宿を発った。リバプールからエジンバラに向うには途中で乗り換えが必要だった。男は旅慣れていた。ローカル線からの乗り換えなので、猫吉は間違えないようにしなければならないと緊張していたが男の後について難なく乗り換えできた。急行列車の車内で、猫吉は旅行企画の広告を取り出した。「これ、どこの景色かわかる?」猫吉は、社長が広告に使った、この景色の場所に行きたかった。社長に何処か聞いたが、スコットランドと言うだけで詳しくは教えてくれなかった。「それは、スコットランドのテイサイドだと思いますよ。」意外にも男は簡単に答えてくれた。テイサイドと言われても猫吉はわからない。エジンバラに4日ほど連泊の予定の猫吉は、この景色が見れそうだと思うと嬉しかった。男は、テイサイドへ行く交通手段も教えてくれた。リバプールからエジンバラまでの移動時間は4時間あまりだった。エジンバラで、猫吉と男は別れた。「また、どこかで会いたいですね。」男は、そう言って握手をした後、忙しそうに駅を後にした。一緒に昼食でもと考えていた猫吉だが、彼には予定があるようだ。笑って見送った。エジンバラにも見所は多い。簡単に昼食をすませて、ぶらぶらした。今夜から宿泊する予定の宿には早めに入った。「明日はテイサイドに行ってみよう。」そう考えながら猫吉は眠った。今日もすぐに寝てしまった。寝つきがいい。夢もみなかった。深い眠りについたのだろう。
 翌日、猫吉はテイサイドを目指して早めにエジンバラの宿を後にした。成田を発ってからロンドンに到着して、リバプールで2泊そしてエジンバラで1泊だ。楽しい時間は振り返ると早い。エジンバラでは長く滞在できる。テイサイドまでは2時間ほどだった。そして、猫吉は例の景色を目の当たりにした。初めて見る景色のはずなのに、どこか懐かしい。自分は生まれた時からずっと、この景色の中で育ったのではないかと思うような感慨にとらわれた。そんなはずはあり得ないのだが。白いネコが、近くに来た。人に慣れている。「どこかで飼われているネコだろうか。」ネコは、猫吉の後をついて歩く。撫でるとゴロゴロと喜んでいる。猫吉は草原に座り込んだ。ネコも隣にちょこんと座る。猫吉は伸びをしながら、なんとも言えない幸せな気分になった。そのまま、草原に寝転んだ猫吉は軽い眠りに誘われた。気持ちよくまどろんだのだ。猫吉は目を覚まして時計を見た。夕刻が近くなっている。「宿に帰らないといけない。」猫吉が起き上がると、一緒にまどろんでいた白いネコも目を覚ました。バス停に急ぐ猫吉を見送るように白いネコは、猫吉から離れなかった。名残惜しいがバスに乗った。ネコはバスに乗れないことは知っているように、バス停に座っていた。宿に入った猫吉は夕食を食べてすぐに、ベッドに入った。無性に眠い。こんなに眠さを感じるのは珍しい。猫吉は眠りについた。どれくらいの時間がたったのだろう。猫吉はベッドの脇に気配を感じて目を覚ました。そこには、悲しそうな人が立っている。「あなたは、誰ですか?」猫吉の問いかけには答えない。無言のまま、人は近づいてくる。猫吉は逃れようと思うが身体が動かない。人は近づいてくるのだが一定の距離から、それ以上は近づかない。猫吉は不思議な気分でいた。逃れようとするが身体は動かないままだ。そして朝になった。
 時間は普通に過ぎていく。今日もテイサイドに行こうと思っていた猫吉だが、目覚めが悪い。不思議な倦怠感だ。ここでの時間はたっぷりある。猫吉は、『do not disturb』の札をドアに吊って、今日はゆっくりと部屋でくつろぐことにした。ベッドで横になっていると、いろいろなことが浮かんでは消える。夢か現実かわからない。昨日出会った白いネコが手招きしている。なぜかラフカディオハーンの耳なし芳一の話を思い出した。夜になった。今日は寝てばかりだ。せっかく旅行にきたのにもったいない一日だった。明日は、またテイサイドに行こう。そう考えながら猫吉は眠りについた。
 猫吉は耳に痛みを感じて目を覚ました。何者かが猫吉の耳を引っぱっている。しかし耳に手をのばすと、何者の感触もない。気のせいだろうか。しかし、耳は痛い。灯りをつけて鏡を見たが耳に変わったところはない。昼間、寝すぎたので、寝つけない、時計を見ると朝の4時半だ。ふらふらと起き上がった猫吉は宿の人に、「今朝の朝食は、いりません。」と言って宿を出た。何かに導かれるように、猫吉は、エジンバラの通りをふらふらと歩いている。猫吉の周囲を白いネコが歩いているのだが、猫吉は気が付かない。どうしたことか急激に視力も衰えていた。白いネコは、猫吉の歩行を邪魔するかのように、猫吉の前に回ったり、ズボンを噛んだりするのだが、猫吉は意に介さないように、ふらふらと歩く。ネコは邪魔をし続ける。通りを折れて、細い道に、猫吉は入っていく。あたりの景色がだんだん寂しくなってくる。森を抜けた猫吉の前に大きな門が現れた。門の入り口に何か書かれてあるが、猫吉は読もうともしない。ネコは、必死になって猫吉を止めようとするが、猫吉はまっすぐに進んでいく。人の気配はないのに、門がギィーっと音をたてて開いた。猫吉は吸い込まれるように、門の中へと入る。白いネコは、門の手前であきらめたかのように、猫吉を見た。猫吉が門の中に入ると同時に、門はぴしゃりと閉まった。奥にはお城のような建物が、あったようだ。しかしコウモリが幾重にも飛んでいて中の様子はわからない。


 猫吉が、門をくぐってから1週間がたった。帰ってくるはずの旅人が帰ってこない。宿は、警察に捜索願いを出し、日本に連絡をとったりした。しかし、猫吉の行方は杳としてわからなかった。電車やバス、飛行機に乗った情報も得られず、行方不明になる当日の猫吉を目撃した人もいなかった。日本人が歩いていればわかりそうなものだが全く情報はないままだ。さらに1週間がたった。ツイード川(River Tweed)に何かが流れてくる。その異様な気配に発見した人は警察に連絡した。警官が駆けつけてきて引き上げた。それは変わり果てた、猫吉だった。体内にほとんど血液は残っていなかった。そして、両耳は無残にもちぎり取られていた。この異様な光景を目撃した人から人へ話が伝えられた。そして、犯人は人間ではない。「エジンバラの吸血鬼」と騒がれた。


時は、遡る。1961年のことだ。スコットランドのテイサイドの農家で1匹の白いネコが誕生した。このネコは、元気に育っているのだが、月日が流れても耳が立たない。このネコが猫吉が別の世界で生まれ変わった姿であった。前世の記憶のせいかどうか耳を立てることを頑なに拒んだまま育ったのだ。

その後、スコットランドの折れ耳ネコは、計画的に繁殖させられるようになる。姿を変えた猫吉の子孫は、今では日本でも生きている。





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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

にゃん吉怪談劇場「行き先のわからないバス」



にゃん吉怪談劇場である。

昔、水木しげるさんの漫画で、乗り物の行き先が怖いところというのがあった。
小さい頃は怖かった。
乗り物に乗って車窓からあたりを見ると夜は暗いものであった。

この夜の怖さは、青少年が夜に出歩くことの歯止めになっていたかもしれない。


2015092520033194e.jpg


にゃん吉怪談劇場「行き先のわからないバス」

さち子は、バスと電車で通勤している。
毎朝、家のすぐ近くでバスに乗り30分かけて駅に行く。
駅から電車に揺られて、20分。会社の近くの駅に到着する。
会社は、9時からだ。
8時に家を出ても遅刻しないで着きそうなものだが、バスも電車も20分から30分に1本しかない。だいたい、7時に家を出れば、慌てることなく会社に到着する。
会社は午後6時までだ。6時すぎに会社を出る。
そのままスムーズに電車に乗れれば、7時前には家の近くの駅に着く。
7時すぎに発車するバスに乗れば、8時前に家に到着する。
電車の終電は遅い。しかし、最終バスは9時の発車である。
家から、駅の間は、さち子は何度もこのバスに乗っている。
しかし、家から先には、行ったことがない。
さち子が家の前でバスを降りた後も、バスはどこかに向って走っているが、さち子の家は山裾の集落の中にある。
8時ぐらいにバスに乗った場合も、さち子が降りる頃には、バスの乗客はいつも、ほとんどいないのである。

月末は、さち子の会社も忙しくなる。
会社を出るのが、7時を過ぎることもある。
会社の人たちは、若いさち子の帰宅を心配して、遅くとも7時半までには、退社するようにしてくれる。
おかげで、さち子は、最終バスより前のバスで帰宅できる。

10月1日は、さち子の誕生日だ。
今年の誕生日、さち子は4時過ぎに目が覚めた。
いつもなら、5時半に起きるのが辛いのに。
「年をとったからかしら。」
さち子は自分に話しかけるようにつぶやくと、会社に行く準備を始めた。
いつもは、あわただしい朝なのだが、1時間以上も早く起きているので、余裕を持って準備ができる。
さち子は、いつもより入念に髪をときながら、自分に向って微笑みかけた。

いつもより早いバスで出発する。
バスは遅れることなく、さち子を駅まで運んでくれた。
1便早い電車で会社に向う。
もう、3年半も勤めているが、この時間に出社するのは初めてだ。

いつもは、8時半過ぎの出社なのだが、今朝は8時に着いている。
いつもと違って、全てに余裕がある。
「早起きしてよかった。」
さち子は、ささやかな幸せを感じた。
「あら、さち子さん、早いわね。おめでとう。」
会社の木下さんである。
ちゃんと、さち子の誕生日を覚えていてくれる。
職場の女性は、木下さんと、さち子の二人なのだ。
「おはようございます。ありがとうございます。」
さち子は、嬉しそうに答えた。
入社した時は、木下さんは怖い人だと思った。
しかし、きびしいのは、仕事に対して真剣であるからだ。
木下さんに、厳しく教えられたおかげで、さち子もいっぱしに仕事ができている。
今では姉のように慕っている。
さち子は、一人っ子だ。

夕方である。
そろそろ帰り支度を始めようとした、さち子であったが仕事の区切りがつかない。
せっかくだから、一区切りつくところまでやろう。
さち子は、少しだけ仕事を続けることにした。
「早く帰りなさいよ。お先に。」
木下さんが、帰った。
7時を過ぎた。
「さち子さん、そろそろ帰ったほうがいいのじゃない。」
社員の佐藤さんが言う。
「はい、ありがとうございます。」

いつの間にか、8時が近くなっていた。
「おつかれさまです。」
そう言って一人一人、帰っていく。
いつもは、この光景も見ることはない。
「みんな遅くまで、がんばってるんだ。」
さち子は思った。

仕事がひと段落ついた。
さち子も、帰らなければならない。
社内には、2人ほどの社員しか残っていない。
「おつかれさまです。」タイムカードを押して、さち子は帰途についた。

「バス、間に合うかしら。」
さち子は駅に急いだ。
小走りで駅に到着した、さち子は扉の閉まりかけた電車に駆け込んだ。
いつもなら、駆け込み乗車をする人を傍観している、さち子である。
「みんな事情があるんだ。」
さち子は、日常と少し違った自分を楽しんでいることに気がついておかしかった。
それは、ちょっと幸せな感じであった。

電車が駅に到着する。
いつもは、ゆっくり改札を抜けるのだが、今日は事情が違う。
最終のバスに乗れるかどうか。
電車を下りた人をすり抜けるようにして改札に急ぐ。
そして、バス停に向って走れ、さち子。


バスはすでにバス停に止まっていた。
駆けて、バスに乗ったさち子だった。
さち子が乗ったとたんにバスの扉は閉まり、バスは発車した。

バスには、さち子を含めて乗客は3人しかいない。
いつもなら、駅前のバス停を発車する頃には座れない人も多い。
最終のバスの乗客が少ないことも、初めて知った。

バスが駅前のバス停を出て5分後に到着するバス停で、2人が降りた。
バスの乗客は、さち子だけになった。
いくつかのバス停を通過する。
誰も乗り込んでくる人はいない。

バスの揺れは、ここちよい眠りを誘う。
いつもになく早起きした、さち子は駅前のバス停を出たとたんに眠くなっていた。
そして、15分も過ぎた頃には、バスの座席で眠ってしまっていた。

心地よい揺れの中で、さち子は夢をみていた。
憧れの人と結婚する夢である。




「あっ。」
「寝てしまった。」
さち子は目覚めた。

「次は序段です、お降りの方はボタンを押してお知らせください。」
バスのアナウンスだ。

さち子の家の近くのバス停は、すでに通りすぎてしまっている。

「寝すぎてしまった。」さち子はどうしようかと思った。



「次は階段、階段です。お降りの方はボタンを押してお知らせください。」

バスはどんどん走る。
さち子の知らないバス停を通りすぎる。

外は、雨模様だ。
窓の外は、真っ暗で湿っぽい。


「降ります。」

思わずさち子は、ボタンを押した。



「次は臼井、臼井。お降りの方はボタンを押してお知らせください。」






バス停にバスは止まった。
さち子は、バスを降りた。
逆方向に、どれだけ歩けば家に着くだろう。

そんな、ことを考えながら、さち子はバス停を見た。
バス停の看板には、「臼井」と書かれている。


臼井さち子。

(薄い幸子)




そして、バス停の前には、石段があった。



これが本当の「階段(怪談)」である。















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にゃん吉怪談劇場よりは、おもしろいに違いない。
でも、怖いから買わないのだ。


怖いもの見たさは、卒業した、にゃん吉なのであった。








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にゃん吉怪談劇場 「せん血」



深夜も近い時間のラーメン屋さんのトイレであった。

ラーメンを食べる前にずいぶんと水分を摂ったにゃん吉は、尿意をもよおしていた。

静かなトイレだった。

そして、とてもきれいに掃除されていた。




用を足していると、真っ白な小便器に、一筋の鮮血が舞った。


不自然に一箇所が赤く染まっている。








血尿




にゃん吉、初めての経験であった。

にゃん吉も生き物である。

無理がたたれば身体は正直だ。


微妙にショッキング














しかし、なんかおかしい。






鮮血は完了後の、ぷるぷるの時におきたのだ。










ふと右手を見ると、薄く手を切っている。

昼間、機械のバリで手を切っていたのだ。







そして、鮮血のもとは、その右手の傷口であった。







にゃん吉も生き物である。


手を切ると鮮血がほとばしることもある。













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恐怖の一夜 〜千夜染夜物語



梅雨の開けた関東地方の気温は急激に上昇した。
昼間は30℃を軽く超える。
夜も蒸したような暑さである。
疲れた足で帰宅した、にゃん吉は部屋の温度計を見た。
閉め切った部屋の温度は暴力的に上昇している。
36℃を超えていた。
これは部屋の中としては記録的だ。
汗がふきだす。

にゃん吉は、窓を開け放し、エアコンのスイッチを入れた。
部屋の気温はすぐには下がらない。
冷たいシャワーを浴びて、火照った身体を静める。

部屋に戻ると、気温はまだ下がっていないが湿度が下がって、少し涼しく感じられる。
窓を閉めて、食事をする。
平日の夜は、味気ない。
食事が終われば、寝るだけだ。
後は、明日のことなのだ。

にゃん吉は、ロフトに上がった。
静かな眠りのひとときを迎える。


寝つきは悪くないと思う。
布団に入ってしまえば、すぐに寝てしまう。




寝入ってすぐのことだった。
いきなり、寝込みを襲われたのだ。

暴力的な敵は、にゃん吉の耳の中で、ごぞごぞとうごめいている。
敏感な右耳を攻められた、にゃん吉は即座に目が覚めた。

敵の姿は見えない。
とめどもない恐怖に襲われるのだ。


しかし、おそれてばかりでは何も解決しない。
敵の正体はわからないが、耳から引きずり出さないことには、勝負もできない。
にゃん吉ねこパンチも、にゃん吉ねこキックも、耳の中の相手には届かない。
スモールライトがあれば、指を小さくさせて、虫を引きずりだしてやるのだが、今日はドラえもんが来ていない。

にゃん吉ファイヤー  しゅぽぽぽ~。」
声に出してみたが、事態は変わらない。
やつは、変わらず耳の中にいるのだ。
いたずらに暴れさせると、鼓膜を傷つけられるかもしれない。
にゃん吉、人生のワースト3に入る恐怖の戦いだ。


まずは、明かりをつける。
そして、戦うための道具を探そうとした。

すると、敵は活発に行動を始めた。
耳の中で、どったんばったん動く。

もう、たまらない。
耳に小指を差し込もうとすると、あたり一面に、なんともいえない異臭が漂った。

そして、にゃん吉の指と耳の周辺にこらえきれないほどの異臭を残したまま敵はどこかに消えた。
その姿をはっきり見ることはできなかったが、小指の感触は、固いものだった。
そして、あたり一帯に漂う異臭は、間違いなく、カメムシだ。



にゃん吉は、再びバスルームにいた。
深夜2時頃である。
狂ったようにシャワーを浴びて、ボディーソープとシャンプーで身体を洗う。


スコティッシュフォールドの耳が、なぜ折れ曲がって耳をふさいでいるかわかった。
カメムシの攻撃に備えるために違いない。
耳のあたりから漂う匂いは、ダイレクトに五感に訴える。
臭いのだ。





にゃん吉は、布団にもどったが、敵の存在が気になって眠れない。
朝まで悶々と時間を過ごしてしまった。


美容院でパーマをかける時の耳あてのようなものをガーゼで作ろう。

本気で考えている、にゃん吉であった。








スコティッシュフォールドである。
外敵から耳を守る、素敵なボディーなのだ。






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Author:天乃にゃん吉
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電車と、ラジコンヘリと、お出かけが大好き。
おまけのおもちゃB級コレクター。
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